
義歯を入れないで食事をすることには、栄養学的にいくつかの重要なデメリットがあります。以下に主な点を挙げます。
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1. 咀嚼能力の低下による食物選択の偏り
義歯がないと、噛む力が著しく低下し、特に硬い食品(肉類、根菜、豆類、ナッツ、全粒穀物など)を避ける傾向が強くなります。これにより以下のような栄養素が不足しがちになります。
• たんぱく質:主に肉や魚、大豆製品から摂取されるが、これらは咀嚼を要する食品。
• 食物繊維:野菜、果物、豆類の摂取量が減ることで不足。
• ビタミン・ミネラル類:特にビタミンB群、ビタミンC、鉄、亜鉛など。
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2. 食事量の減少によるエネルギー不足
義歯がないと、食べること自体が億劫になる場合が多く、食事の量自体が減少しやすくなります。これにより、総摂取カロリーが不足し、エネルギー不足に陥る可能性があります。
• 特に高齢者では、体重減少やサルコペニア(筋肉量減少)のリスクが高まる。
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3. 消化吸収への影響
咀嚼が不十分だと、食べ物が大きなまま胃腸に送られるため、消化酵素による分解が不十分になります。これにより、栄養素の吸収効率が低下することもあります。
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4. QOLの低下と間接的な栄養問題
義歯がないことで外食や他人との食事を避けるようになり、孤食・食事回数の減少が起こることがあります。これが間接的に栄養の偏りや食欲低下を招く可能性があります。
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結論
義歯を装着しないことで、食べられる食品の選択肢が制限され、栄養の偏りや不足、消化吸収の問題、QOL低下などを通じて、全身の健康に悪影響を及ぼすリスクが高まります。とくに高齢者では栄養失調や体力低下につながりやすいため、栄養学的観点からも義歯の使用は重要です。
笠松恵子